2020年5月14日 更新
(表紙写真) 第10回あはき運動交流会厚生労働省交渉(2013年9月3日、厚生労働省前) 左から、水上幸子、織田津友子、稲垣実、杉田直枝、鈴木和子、楠田房雄、平野力三、権平嘉昭、田山悦男、岡田清一、新井武士の各氏
2014年2月号の社告でお伝えしたとおり、「点字民報」は、2014年4月から、月刊と増刊の2つに再編しました。
月刊は、総務局の編集により、より速報性と運動性のあるものに改めます。
また増刊は、点民編集委員会の下に特集毎の作業班を設けて、毎年度4月・7月・10月・1月に発行します。増刊第1号となる本号の特集は、「一丸となってとりくむ要求の実現に向けて」です。
全視協の要求は、全国大会で採択してきました。代表的なものは、1981年の国際障害者年に採択した「80年代7つのビジョン」(第15回東京大会)、1987年の「全視協トータル要求」(第18回東京大会)です。
「一丸となってとりくむ要求」は、2009年の第29回石川大会から採用されたものです。2年後の次期大会までの期間、重点的・集中的にとりくむべき要求であり、「大切にする要求」に括った、まちづくり、情報、就労、あはき(あん摩はりきゅう)などの要求と区別されます。今回の5つの「一丸」の要求は、2113年の第31回大阪大会で決議されました。
本増刊号が、それらの運動の資料として活用されれば幸いです。
(点民編集委員長 野島潔)
以下の原稿は、「身体障害者手帳等級の改善を求める請願」署名活動開始時の2010年9月に、弱視委員会の川田佳子(かわだ よしこ)さんが執筆したものです。
私は、高校3年の時に右眼の、27歳の時に左眼の視力に障害を受けました。現在40代後半なので、約30年間、弱視者として生活しています。 高校生の時も27歳の時も、幾つかの眼科にかかりました。その時にかかった眼科は、病名をくだし、後は経過観察で、治療も何もありませんでした。理解できないまま、事務職を辞め、車の運転もできない、階段から落ちる、障害物にぶつかるし、本当に、自分に何が起きたのか・・・・? 夢の中にいるようでした。
何年かの時間の中で、見えない視力にも慣れて生活をしていましたが、ある日、このままではいけないと思い、点字図書館の存在を知り、図書館に行きました。図書館で盲学校が地元の高知にもあることを知りました。
私は、36歳で盲学校に入学しました。27歳で左右とも視力に障害を受けて、9年の年月が過ぎていました。この年月は、私に必要な時間だったのでしょう。もし、この時にロービジョン(弱視者)検査があり、その検査の結果、ケアを受けることができ、その下で、自分の障害を十分に理解し、職場復帰の為の訓練を医療として受けることができたなら、どれほどの心のサポートになっていたでしょうか。
弱視者をめぐって、もう一つの重要な課題があります。視覚障害者の場合、身体障害者手帳の等級は現在、両眼の視力の和と視野検査で決定されています。例えば、右の視力が0.02、左が0.02の場合、両眼の視力の和0.04と判定されます。結局、身体障害者手帳は3級となります。ご存知のとおり、身体障害者手帳の、重度障害は1級と2級です。判定される等級によって、受けることができる国や地方の制度の内容が変わってきます。必要な制度を、十分に受けることができないと、社会復帰したくともできなくなり、たちまち生活にも困ります。
視覚障害者は、いくら頑張って見ようとしても、見えない眼は見えません。手帳の等級を「両眼の視力の和」で判定するのは間違っています。主に使用している、良い方の視力で、手帳の等級が判定されるべきです。
暮らしの基本には、いつ障害を受けても、普通に暮らせる制度・しっかりした社会保障・福祉の充実が必要ではないでしょうか。
これを受けて私たちは、次のような国会請願署名に立ち上がりました。
【請願事項】
視覚障害に係わる身体障害者手帳等級の判定は、「両眼の 和」ではなく「良い方の眼」 とするように改めてください。
【請願の趣旨】
現在、視覚障害の等級決定 は、矯正視力による「両眼の視力の和」となっています。両眼の視力の和」についてはかねてより疑問や改善を求める声が多く出されていました。
ロービジョン(弱視者)の場合、よく見えるようになるわけでもなく、視力に左右差のある場合、よく見える方でしか見えていないのが一般的です。これを両眼の視力を合算して、障害の程度を判定するのは無理があります。
身障手帳は、障害者が「社会参加」するための支援や制度を活用するための証なのです。そして、障害の程度等級によって受けるサービスに制限が設けられています。
たとえば、この厳しい社会情勢の中で、障害年金は障害者にとって命綱と言えます。
この年金等級は、身体障害者手帳等級と同様に「両眼の和」として決められており、年金を当然受けられるはずの視覚障害者が、「両眼の和」であるために受けられない者がいること。そして、医療費助成制度においても同様に、等級による制限があります。
この2つを取り上げたのは、障害者が自立する上で欠かせない制度だからです。それが不合理な障害認定によって排除されている状況を、なんとしても改善して欲しいと、多くの視覚障害者は望んでいます。
障害程度認定は「良い方の眼で計って欲しい」というのが、ロービジョン当事者の願いです。また、障害者手帳の交付を受け、制度にふさわしいサービスを受けているのは当事者の一部に過ぎません。
多くの視覚障害者が制度の外に置かれています。そのためにも、制度の欠陥をただし、誰もが安心して自立できる支援・制度にしなければなりません。この改善によって、多くの視覚障害者が社会参加できるようになります。よって私たちは、国に対し、早急な身体障害者関係法の改正を求めるものです。
2012年9月8日、第180通常国会が閉会しました。かねてから、私たちが取り組み、参議院厚生労働委員会に提出していた「身体障害者手帳等級の改善に関する請願」が「審査未了(事実上の不採択)」となりました。残念ながら、民主・公明両党の賛同が得られませんでした。理由は、「党として、請願は受けないことになっている(民主)」、「実行に移す際、予算がかかるので慎重に対応したい(公明)」というものでした。請願採択は、全会派賛成が基本であり、結果的に審査未了となってしまったわけです。なお、請願の紹介議員になってくださった会派は、自民(厚生労働委員8名中3名)、共産・社民・みんな・みどりの風でした。また、提出した署名数は、集めた署名の一部であり、合わせて3361筆(点字署名を含む)でした。
これからの予定として、衆議院については、いま開会中の通常国会に提出したいと考え、準備をしています。
(代表理事 田中章治)
認定は、身体障害者福祉法に基づき、指定医が所定の診断書にもとづき決定されます。
視力は、万国式試視力表を使用して測定したものをいい、屈折異常がある場合は、矯正視力について測定したものをいいます。視力、視野ともに障害がある場合など、同一等級において2つの重複する障害がある場合は、1級上の等級となります。
承諾書に自分でサインができず、病院ですぐに治療を受けることができなかったとの、2012年の第17回全視協女性部福岡大会での発言から、自筆サイン問題の取り組みがはじまりました。女性部では、医療を受けるときのサインについての学習会(2011年8月)、全視協では、事例収集や2013年の第31回大阪大会分科会での取り組みなどをしてきました。
まず、自筆サインはどんな時に求められるか列記すると、クレジットカードの契約や使用時、生命保険や損害保険の加入や契約の更新・保険金受け取り、住宅ローンの契約、金融商品の契約、不動産の売買や貸し借り、商品の購入、介護保険や障害者総合支援法の利用(契約)、年金・税金・登記や市町村役場での手続き、パスポート申請、電話や携帯電話の購入などの契約、宅配の受け取り、点検や依頼した工事の終了確認、職場や地域の回覧板、そして医療の場では治療・検査・手術の承諾などの多くの場面で遭遇します。
このような時の対処法をあげてみますと、
私たちの運動により、金融機関で預貯金の入出金は銀行員の代筆がされるようになりました。その他、ハンドライティングでサインする欄を教えてもらい自分で書く、パスワードや暗証番号でサインをしないサービスを利用する、印鑑を押す(宅配の受け取りなど)、有料で専門家に依頼(不動産登記など)。しかし多くの場合、代筆での対応になると思われます。
代筆者は、サインを求める側の時と、自分側の時とがあり、その場合ヘルパーや友人など誰でも良いという場合と、三親等までの家族に限るとか、サインを求める側と本人と代筆者が揃っているところで書くとか、本人代筆者共に印鑑証明を添えて提出せよ、などの条件がつくことも少なくありません。
見えないのだから当たり前と、以前は簡単に代筆をしてもらえたのに、最近は自筆サインを求められることが多くなったように感じます。
これは市民の権利意識の高まりや、何事も書面で意思確認をするようになったためだと思われます。
医療を受けるときも、医師の説明責任が強く言われるようになり、それと同時に患者としての意思表明もきちっとしなければならず、自筆サインへのこだわりとなったのでしょう。
自筆サインを求められることが増えた上、簡単に代筆することが許されなくなっているのは、法律を遵守するということより、「臨機応変な対応」がなされなくなってきたからのようです。
少し古い事件ですが、預金を引き出す書類の記入を依頼されたボランティアがその額より多くを引き出し、差額を着服した事例、銀行員が預金を着服したうえ全盲夫婦を殺害したという事例がありました。障害者の命や財産を守るためには、「好意」ではなく、社会的に確立した代筆サービスが必要だと感じた事件でした。
代筆してもらえなくなっている理由の一つに、本人の意に反したサインをしたことで、色々な不正が起こる可能性があることがあげられます。医療訴訟その他トラブルの時、書類の改ざんも可能になるということなのでしょうか。
今後の取り組みについて考えてみましょう。
視覚障害者も自分でサインをする方法を持つこと。ハンドライティングの際は、漢字を書くことがむずかしい、先天盲はカナやあるいは自分の記号をつくって利用するというのはどうでしょうか。訓練や指導サイン欄を確認できる道具を利用することも必要かもしれません。
そして私たちの文字である点字のサインを認めさせること。時間はかかったが受理された事例報告もあります。
指紋や手首の脈、顔・耳など研究が進んでいる生体認証の活用にも、今後注目したいと思います。
代筆では、代筆を求める側がするのが最も望ましいと思いますが、不正が起こらないよう複数での対応や、ビデオ撮影などの可視化も検討課題だと思います。
それでも私たちの権利が侵害される可能性がある場合、代筆ヘルパーの制度なども検討してはどうでしょうか。
代筆を認めなかったクレジットカードや生保では、法律の規定だからと言っています。障害者の存在を考慮していない法律の実態を明らかにし、その改正を求めていく運動も必要でしょう。
また、正しい判断をするための情報を、点字・音声情報などでいかに受けるのかも重要です。サインをする書面に何が書かれているのか確実にわかる方法も確立していく必要があると思います。
社会福祉法の第77条には、社会福祉事業者がその利用者にサービスの契約内容を記載した書面を交付すること、また、書面に代えてこれを電子情報の形で提供できることを規定しています。ここを運動の一つの手がかりとしていけるのではないでしょうか。
視覚障害者が自身で判断し、その意思を正しく表明できる方法や制度の確立のため、知恵と力を結集しましょう。
(理事 濱田登美・和泉厚治(補筆))
2008年6月に東京で開催された「全視協まちづくり集会」において、ハイブリッド車の走行音体験会が品川区の(株)メガウェブトヨタショールームで持たれた。想像した以上の静音に参加者すべてが驚きの声をあげ、今後急速に増えるであろうEV車(電気自動車)、HV車(ハイブリッド車)の存在に恐怖さえ感じたことから、電気自動車・ハイブリッド車等の静音車対策への取り組みが、全視協まちづくり運動の中心的課題として急速に浮かび上がり、以後、「一丸となって取り組む要求運動」として取り組まれている。
1.2009年の全視協石川大会において、「一丸となって取り組む要求運動」の一つとして、「電気自動車の走行音を確保し、視覚障害者の安全な歩行を確保する」ことが方針化され、静音車対策への本格的取り組みが始まった。
2.この静音車対策方針の決定と軌を一にして、2009年7月に国土交通省のハイブリッド車等の静音車対策検討委員会がスタートした。まちづくり担当者数人でその後数回にわたり委員会を傍聴するとともに、この委員会主催の静音車体験会が、同年8月から2回ほど、東京都調布市の独立行政法人交通安全環境研究所で行われ、近県の会員が実験モニターとして参加した。
また、同年末に行なわれた国土交通省の「ハイブリッド車等の静音性に関する対策検討に係るパブリックコメント募集」に会員多数が応募し、とりわけ視覚障害者にとっての、車の走行音の絶対的必要性を訴えたが、2010年1月に出された「ハイブリッド車等の静音性に関する対策のガイドライン」は、私たちがパブリックコメントで求めた (1)車両停止時の音声付加、(2)音声一時停止スイッチを採用せず、(3)すでに走行している車への音声付加の早期義務化、を反映したものとはならなかった。
3.全視協石川大会方針の「一丸となって取り組む要求運動」を、2011年の同愛知大会は、「ハイブリッド車等の静音性対策」について、要旨を以下のように総括している。
①車両停止時の音声付加、②音声一時停止スイッチのガイドラインからの削除、③すでに走行している車への音声付加の早期義務化、④普通車のバック時の警告音付加、の要求を掲げて活動してきた。
いわゆるエコカー減税の導入も加わり、静音車の増加が際立っている昨今、外出時にこれら静音車に遭遇することが多くなり、大阪、神奈川で私たちの仲間が静音車による事故に合う事態となってしまった。
一方、人身事故にまでは至らないケースでも、「杖をひかれた」「そばを通り抜けられ怖い思いをした」「横断歩道上に停車していた静音車に気が付かずぶつかった」など、一歩間違えば大事故につながりかねない報告が寄せられている。
今年11年春の「手をつなごう全ての視覚障害者全国集会」の、静音車に関する国土交通省要請でも、「新車への疑似エンジン音設置の義務化の期限はガイドラインにはない。その義務化については国際基準化の確定が2014年に予定されておりそれを念頭に検討したい」と先延ばしされ、既存車は事実上の野放し状態となっている。
疑似エンジン音のない静音車は道路交通法に言う車両ではないことを告発し、とりわけ官庁などの静音車には率先しての疑似エンジン音の付加を求めるとともに、その公用車を使っての実証体験会の実施を求めて活動している。」
大阪 氏野喜佐江
2010年11月26日の朝、時間に追われ仕事に向かう。あと数メートルで最寄り駅。一瞬目の前にフロントガラスのような物が。気がつくと道路に横たわっていて、私の大事な白杖はタイヤにひかれて丸くなって車の下に。
救急外来ではレントゲンやCT検査の結果異常なしとの診断。2・3日たっても痛みはとれず、後日、再度整形外科外来を受診。事故当時の写真を見ながら、右第12肋骨と第12胸椎の圧迫骨折との診断にて自宅で療養。友からのお見舞電話で、「車の音はしなかったの?」と聞かれたが、「わからなかったしどんな風に倒れたかも記憶がない」と答えてから、疑問に思い保険会社に聞いたところ、問題のハイブリッドカーであった。聞こえないはずだ。人通りがなかったら、今頃私は、と思うと・・・・。
世間では、溢れかえる騒音が取り沙汰されている。しかし、私たち視覚障害者にとっては絶対に必要な音がある。車の走る音、バックや左右に曲がる音、大型車には音声や合成音で外部に知らせてくれる装置がある。それをすべての車に設置するよう義務化してほしい。この体験は、私にとって外を歩くことへの恐怖を増幅させ、今だに恐怖と緊張の歩行を強いられている。それは、駅ホームと違う怖さ、どこで遭遇するか予測できないことにあるように思う。これからも増えるであろう音のしない車がどんなに増えても、安心して一人歩きができる街になることを願っている。
(点字民報2011年3月号より抜粋)
神奈川 鈴木和子
2013年11月29日、全視協からの呼びかけで、静音車に音を付加する実験に参加しました。実験は、研究所の中の道路で通報音を出さないで走った時と、鳴らしながら走った時を聞き、5段階でアンケートに答える方式で行われました。当日は風があり、落ち葉が地面を滑る音はしていましたが、それ以外の音はなく静寂な中で行われました。
静かな所なら、音がしない車でも近づいてくるのはわかります。それと比べて、通報音は大きいとは思えませんでした。これを街の騒音の中で聞いたらわかりにくいだろうと思いました。
私はアンケートの最後に、「このような実験は普段の街の騒音の中でやってほしい」と書いてもらいました。 この実験は歩行者のためではなくて、国際基準にメーカーが合わせるためのアリバイ作りではないか、そんな考えがよぎったのは私の思い過ごしでしょうか。
(点字民報2014年1月号より抜粋)
車の存在が確認できる静音車を求めます
1.視覚障害者の単独歩行には白杖の使用が欠かせないことは言うまでもない。白杖で道路を叩き、その打音と反響音、そして白杖の触知で環境認知をし移動するとともに、車の走行音や人の足音も重要な音情報である。
1.私たちは、「ハイブリッド車等の静音性に関する対策のガイドライン」策定の段階で実施された疑似エンジン音の体験会にも参加したが、今回体験した疑似エンジン音は、ガイドライン策定課程の装置よりも音が小さくなっている。
1.車両と歩行者が接しながら歩行せざるをえない状況のもとで、安全に安心して歩行するためには、車両の存在を知った上で、自ら事故を防ぐことが不可欠である。この前提に立てば、音による車両の存在の認知手段の確保は、事故防止の保障であり、音による認知を可能とする条件整備がぜひとも必要である。
1.今回体験した4種類の音が疑似エンジン音の標準となってしまえば、視覚障害者は単独で歩行することはできなくなる。音量を安全確保にふさわしく上げるとともに、音の発生場所を前後・左右に設ける等の改善が必要である。
1.車両に接しながら安心して歩行するためには、安全確保にふさわしい疑似エンジン音を全ての静音車に装備することを義務付けるとともに、同装置の作動を解除できないものにすることが不可欠である。(2013年12月)
静音車は一般車の約5パーセント・300万台を超える数が街を走り回っているが、疑似エンジン音の付加の義務づけは、国際基準化を理由に先延ばしされている。また、今年から静音車の新車に設置が義務付けられる疑似エンジン音は、運転手の操作でスイッチを切ることができるもので、スイッチが切られれば、停止時はもちろん、低速走行時には音声はなくなってします。
このような「音のしない車は欠陥車」状態が放置されれば、私たち視覚障害者にとどまらず、社会全体に、騒音被害にまさる様々な深刻な影響を与えかねないことを広く訴え、要求実現に向けて賛同の輪を拡げていきたい。
(理事 野島潔)
2011年7月24日のテレビの地上デジタル化の完全実施に向け、地上放送停波などのことが、2006年頃からマスコミで報じられるようになりました。
このような状況の下で、全視協などの団体でつくる「手をつなごう全ての視覚障害者全国集会」として、テレビのアナログ放送の停止と地上デジタル放送の実施(以下、地デジ化)に向けての対応を国に求めていくこととしました。具体的には、地デジ化については総務省に、視覚障害者に操作可能なテレビの開発等については経済産業省・社団法人電子情報技術産業協会・ソニー・パナソニックなどに求めました。また、民報労連・有識者が取り組んでいた「はじめ地デジ化ありき」の施策の見直しを求める集会や国会行動に参加し、私たちの要求を訴えました。 2011年4月から7月まで、「視覚障害者からテレビを遠ざけない地上デジタルテレビへの移行を求める」国会請願署名に取り組み、点字・墨字合わせて約3千筆を衆議院と参議院に提出しました。
また、2011年7月24日の地デジ化のその日に、「FMラジオでテレビ放送の終りを聞くつどい」を開催。これを朝日新聞の「天声人語」やしんぶん赤旗等が取り上げるなど、配慮に欠けた国の施策が浮き彫りとなりました。
ここで私たちの運動を前進させたのが、山下芳生(日本共産党)議員の参議院総務委員会における質問でした。これらを受けて国会では、衆・参両院で、上記の私たちの請願が採択されました。
請願採択を受けて私たちは、経済産業省に対し、テレビが聞けるラジオ(テレビラジオ)の開発をテーマにテレビメーカーと全視協の懇談会開催を要請。2011年11月に、ソニーなど電子産業技術協会に参加するメーカーとの懇談会が実現しました。
さらに、厚生労働省に対し、テレビラジオを日常生活用具にすることを要求。腰の重い厚生労働省に対して2012年11月29日、田村智子(日本共産党)議員とともに具体化を強く求めました。この席で厚生労働省は、日常生活用具化の推進策の検討を約束。同省の障害保健福祉関係主管課長会議資料に、「地デジ対応ラジオについては、視覚障害者の日常生活上の情報を保障するとともに、社会参加が促進されるものであり、日常生活用具の『情報・意思疎通支援用具』に該当すると判断することも可能である。」(資料1)との判断を示しました。
全視協はこれまで、点字ディスプレイの日常生活用具化を進める運動に取り組み、視覚障害者の声に基づく日常生活用具制度を求めてきました。テレビラジオの日常生活用具化の推進は、この運動のさらなる発展をめざすものです。
テレビラジオを日常生活用具として給付する自治体は徐々に広がりをみせていますが、2014年1月9日現在、全国1742市町村のうち僅か79市町村(株式会社アステム調べ、資料2)です。
全視協は、要請書の雛形を作り、市町村・議会への働きかけを呼びかけています。
また全視協では、現在市販されているテレビラジオの中でもっとも視覚障害者に使いやすいアステム社の製品「TRKO-01B」を推奨しています。
これまでFMラジオを通じてテレビ放送の情報を入手していた視覚障害者が、平成23年7月のテレビ放送の地上デジタル放送化に伴い、FMラジオを通じた情報入手が困難となっていた。
この状況について、視覚障害者当事者団体や多くの自治体からも改善策として、地上デジタル放送に対応したラジオの開発を求める要望が多く寄せられたところである。
これらの要望を踏まえ、厚生労働省並びに総務省の助成事業を活用し、地上デジタル放送に対応し、かつ、視覚障害者が容易に使用できるよう配慮されたラジオが完成し、販売が開始されたところである。
地デジ対応ラジオについては、視覚障害者の日常生活上の情報を保障するとともに、社会参加が促進されるものであり、日常生活用具の「情報・意思疎通支援用具」に該当すると判断することも可能である。
実際に、福島県相馬市、千葉県成田市など、既に日常生活用具として給付している自治体もあるため、各市町村においては、これらの自治体の対応も参考とした取扱をお願いしたい。
テレビラジオを日常生活用具として給付する自治体(2014年1月9日現在、株式会社アステム調べ、26都道府県下79市町村)
(株式会社アステム調べ)
これら自治体に住む視覚障害者に制度利用を呼びかけると共に、他の自治体に対しては、先に掲げた「資料1」を拠り所として、日常生活用具の対象品目化に向けての働きかけを強めていきましょう。それは、私たち視覚障害者の放送受信権の広がりにとどまらず、ベンチャー企業の福祉用具開発意欲の喚起にもつながるはずだからです。
(理事 山城完治)
2013年の臨時国会で国連の定めた「障害者の権利に関する条約」(資料1)を批准することが決議され、年明けの1月20日に批准書が寄託された。末尾にその第21条を記すが、「手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他のすべての利用可能な意思疎通の手段、形態及び様式を用いること」など、視覚障害者3大不自由の一つである「情報保障」の権利がしっかり盛り込まれている。
さて、視覚障害者の情報環境は、ルイ・ブライユ以来の点字時代が百年以上続いた。その後、テープなどによる録音時代も加わったのち、高知システム開発社の視覚障害者用ワープロシステムであるAOKからのパソコン時代へ大きく飛躍した。当初は、「6点キーは点字と相性がいい」などと言っていた。OSやネット環境の発展によって、情報環境はますます飛躍した。その反面、PDFなどの画像時代になり、音声になりにくいファイルも登場し、視覚障害者は、また情報から置いてきぼりにされようとしている。視覚障害者でもパソコンの堪能な方だけでなく、私のようにパソコンの苦手な者まで含めた情報の保障がいる。そこで一丸要求にこのテーマが入ることになった。
PDFなどの画像ファイルが多くなってきている。「情報を改ざんされにくいようにする為」「文字ばなれの人が多くなっており、絵や色、図を用いて視覚的に訴える方が一般の人には伝わりやすい」などの理由からである。民間だけでなく公的機関にも増えている。
その画像ファイルを、視覚障害者にはテキストデータなど、音声に乗りやすい形で提供してもらえるようにするのが主旨である。
具体的な要望項目としては、
1.公的機関又は民間機関からのデータ配信は、テキストデータ又はテキスト化できる媒体で提供すること。
2.図や表を含む情報には、説明のテキストデータを付記すること。
3.ホームページは視覚障害者が閲覧しやすいものにすること。
これを国機関だけでなく、地方自治体に対しても運動していきたい。資料に要望書のモデルを付した。これは、一昨年厚生労働省に要望したものを改定したものである。
権利条約と共に、もう一つ追い風があった。 2013年6月のマラケシュ条約(資料2)である。世界知的所有権機関の会合で、視覚障害者などによる著作物の利用促進を目指した国際条約が採択されたものである。この条約は、視覚障害者、学習障害者などが、出版物を利用しやすい形式(デジタル化、点字・大活字化、録音図書)に変換する際の著作権問題を解決することを目指している。日本政府も2015年通常国会の批准に向け準備を進めている。
締約国は、障害者が、第2条に定めるあらゆる形態の意思疎通であって自ら選択するものにより、表現及び意見の自由(他の者との平等を基礎として情報及び考えを求め、受け、及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するための全ての適当な措置をとる。この措置には、次のことによるものを含む。
a 障害者に対し、様々な種類の障害に相応した利用しやすい様式及び機器により、適時に、かつ、追加の費用を伴わず、一般公衆向けの情報を提供すること。
b 公的な活動において、手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他の全ての利用しやすい意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入れ、及び容易にすること。
c 一般公衆に対してサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用しやすい又は使用可能な様式で提供するよう要請すること。
d マスメディア(インターネットを通じて情報を提供する者を含む)がそのサービスを障害者にとって利用しやすいものとするよう奨励すること。 e 手話の使用を認め、及び促進すること。
(1)採択までの経緯(略)
(2)本条約が成立することの意義
本条約は,視覚障害者又はその他の読字障害者による著作物へのアクセスと利用の促進を目的とするものです。本条約の成立は,これらの方々が著作物にアクセスする環境を向上させ,また,これらの方々にとって利用しやすい形式となった著作物の複製物の国境を越えた利用につながるものです。
(1)対象となる著作物
本条約の対象となる著作物は,書籍や雑誌等のテキスト形式のものです。
(2)受益者
本条約の受益者は視覚障害者等であり,具体的には視覚障害者,読字障害者,肢体不自由者(身体障害により,書物を支えること,または扱うことができない人)が対象とされています。
(3)国内著作権法における権利制限
本条約の締約国は,その国内の著作権法において,視覚障害者等のために著作権(複製権・譲渡権・利用可能化権)の権利制限規定を設けることとされています。
(4)視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物の輸出入
(5)視覚障害者等に利用しやすい形式の複製物の不正流通を防止する規定
(6)本条約の発効
本条約は,20か国が締結した後に発効することとされています。
外交会議閉会後,署名式典が開催され,最終文書に署名した国・政府間機関は129,条約に署名した国・政府間機関は51となりました。我が国は,柳谷俊範在モロッコ特命全権大使が最終文書に署名を行いました。
本条約は,我が国の視覚障害者等の著作物へのアクセスの向上に資するものであり,条約が採択されたことを歓迎しています。今後は,関係省庁と連携しつつ,条約締結に向けた必要な対応を行うことを検討しています。
(理事 藤原義朗)
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私は現在、ライトセンターのあはき室と特養で月数日働き、長女の療養に付き合っている日々です。月刊点民で読者の皆様の声を直接聞く機会を得たことは大きな励みです。増刊号は編集期間の余裕を生かして、先ず半分を社員が作るものに変えて行けると、いっそう「読まれる点民」が展開できると思います。
編集委員に加わってまだ2年半です。毎月の会議では編集内容の検討に大論争し、記事集めに奔走し、という委員の皆さんの熱気あふれた雰囲気に押され、鍛えられています。いつも本誌にお寄せいただく思いのこもった原稿や切れのいい文体に教えられ、また委員たちの実行力に学びながら、私も点民の一翼を担っていけるよう努めていきます。
編集委員をさせていただいたことで、視覚障害に関する情報を、広く社会へ発信することの大切さを知ることができたことに心から感謝しています。ここ数年来、弱視であった私の視力は、さらに確実に下がりつつありますし、現在、久我山青光学園視覚障害教育部門に勤めていますので、これらを含めた情報をいろいろな形で発信していけたらと思います。
千葉市の病院でマッサージ師として働き、東京に最も近い市川市に住んでいる上村です。『月間点民』では、中央や各地の運動がより直接的に伝わるように、そして『増刊号』は、楽しみにされる特集記事を目指したい。また、「読者の心に伝わる文章」を追求していきたいと思います。
月刊点民に掲載する各社員の取材担当は新潟、山梨、和歌山、女性部となりました。毎月の取材で得た動きを、神奈川の活動にも生かせればと思っています。また、季刊点民では、まちづくり問題を中心に、学び、深めつつ編集に携わって行く決意です。作成に十数年関わった誇りある点民の力を、次の世代に伝えて行けるよう頑張ります。
点民の編集に15年程関わっています。私は活動家でもなくリーダー的存在でもありません。文章を通して自分自身や人の思いを伝え、運動を広めて行くことをモットーとしています。これからも続きます。神奈川県在住。
今や健康保険証もカード化の時代にあるのに、「障害者手帳」という名前ゆえかカードにはされず、これをいつも定期券などとは別に持ち歩く煩わしさが続いている。
障害名の手帳表記と個人情報保護の課題もある。制度利用の原点となる障害認定には一元化が画策される介護保険との関連も大きい。契約社会における内容判断と決済の権利、聴覚をも活かした安全歩行の権利、放送やネットへのアクセスの権利、これらはどれも「合理的配慮」の概念を実効あるものにする具体的な要求である。
障害者権利条約をやっと批准した国に住む我々当事者が今こそ声を上げるときだ。
(特集班責任者:岡真澄)
(この号、終わり)