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点字民報 2023年10月号 通巻688号

2023年10月5日 更新

 目次と主な記事をお知らせします。

目次

私の困った、私の要求2 JR五泉駅もみどりの窓口がなくなる 鈴木 洋(新潟県)
「19条裁判以降のあはき運動…」に76人 指定発言を受けて自由討論は今後も続く
第16回あはき運動交流会(高知)のご案内 実行委員長 生田行信
全視協女性部から絵本のプレゼントのお知らせ
天海裁判最高裁宛署名スタート 総決起集会開催 上村宏則(千葉県)
掛け替えのない仲間との夜 林 正実(新潟県)
連載 盲人、地球を歩く5 ウズベキスタンを訪れて 村上直人(岩手県)
総務局コーナー
 1 点字署名のお願い
 2 その他の活動記録
 3 頒布会
全国と地域の主な予定

(目次、終わり)

主な記事

連載 盲人、地球を歩く5 ウズベキスタンを訪ねて

村上直人(岩手県)

 先月までの嵯峨野新次さんのニューヨークレポートに続いて、岩手の村上直人さんの旅行記を連載します。これは数年前に岩手の機関誌に報告されたものを再構成して掲載します。

1 「ロシア民謡と救急車」

 「何でそんな珍しい国に行く気になったの」と、周りの何人かに聞かれました。実は、私の甥がそこで日本語教師をしていて、お盆や正月に来るたびに話を聞いていたし、その甥のために6歳の女の子を祖国に残してロシア語を教えるために滞在してくれた「インガさん」と言うお母さんとすっかりお友達になったのです。その3ヶ月の間に何度か彼女と一緒にお酒を飲み、私のアコーディオンでロシア民謡を原語で歌ってくれました。その歌声に魅了され、「これはぜひ現地へ行ってみよう」との思いに駆りたてられたのです。

 個人の旅行は「ツアー」に参加するのとは違い、何から何まで自分で手続きしなければなりません。盛岡の旅行会社に航空券とホテルの予約、そしてビザの手配を依頼しました。当時もここは友好国ではないので、身元調査が厳重です。家族関係なども詳しく届けなければなりません。そんな状態ですから、思わぬ苦労や失敗談もありました。

 大きなスーツケースは前もって宅急便に預け、出国前日に妻と自宅を出て、盛岡から新幹線に乗り、東京で都内の学校へ通っている息子と姪と落ち合って、近くの店で夕食をとりました。そこで姪に空港券を見てもらったところ、搭乗口が第1ターミナルだと初めて知りびっくりです。イタリアやモンゴルへは第2ビルからだったので、この時自分たちもてっきり第2から乗るのだと思い込み、そちら宛てに荷物を送ってしまったのです。出国前からのトラブルに、気が気ではありません。翌朝、ホテルからの直行バスに乗ると、私の携帯電話に、空港の女性スタッフから「お荷物は第1ターミナルに移しておきます。」という穏やかな声が届きました。その優しさがありがたく、心に沁みました。

 空港にバスがついたフロアを地上階だと勘違いしてエレベーターを上り下りしたり、搭乗手続きの場所を間違えてデパートの奥へ迷い込んだりと右往左往。散々な思いをしながらも、やっと機内に乗り込むことができました。

 飛行時間は約9時間。機内食やビールを味わいながらも、長時間座った状態での僅かな空間と騒音で、とても眠れるものではありません。トイレに行くときは通路側の人にわざわざ立ってもらわなければならないし、地上よりずっと喉が渇きます。

 ようやくの思いで目的地に着きました。大半の人はイスタンブールへ行くようで、乗り継ぎロビーへと流れていきます。到着ゲートへ向かうのは何組かのグループや個人旅行者だけです。機内の狭い通路から出口への列を見送ってから、最後にゆっくり降りようと後ろの空いた出口に行くと、何人かの乗務員にさっと囲まれ、タラップの途中からは地上の係員に引き渡されました。地上に降りると、パスポートの提示を求められ、それを返してもらえないまま車に乗せられました。そして少し走っただけで車から降ろされると、背の高いたくましい女性が私を誘導していきます。「ひょっとしてここで拉致されるのでは…」と緊張と不安の中、それでもどうにかターミナルに着きました。別ルートで誘導してくれたのかなと、ここでやっと気づいた次第です。面食らった入国手続きもどうにか済ませ、荷物やパスポートも無事に戻ってきました。

 実は飛行機を降りたとたんに乗せられた車は救急車で、誘導した人は女医さんだったそうです。おそらく、白杖を持った者が乗っているぞと連絡が事前にあったのでしょう。まさかのVIP並みの待遇を受けたおかげで、成田から乗る時のようなドタバタも焦りもなく、タシュケントに降り立つことができました。ほっとして背筋を伸ばし、深呼吸すると、大陸のひんやりとした空気が静かに迎えてくれました。

(この稿、終わり)

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