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点字民報 2023年6月号 通巻684号

2023年6月5日 更新

 目次と主な記事をお知らせします。

目次

もうすぐ、全視協奈良大会です 200人をこす参加の勢い
新連載 盲人、地球を歩く1 ヤンキーなニューヨーカー 嵯峨野新次(東京)
ゆうちょダイレクトのメールワンタイムパスワードが視覚障害者に存続 山城完治(東京都)
踏切事故から1年 安全対策は進んだのか? 島田陽子(奈良県)
眼から耳へ、触への大旋回 「触について考える」 須加 栄(石川県)
新入会員 大津 邦雄さん(千葉県)
新「点民」編集委員のご紹介
 編集委員になって 鈴木 洋(新潟県)
 隅から隅まで読む 村上直人(岩手県)
総務局コーナー
 1 原水禁大会代表者派遣
 2 青森視友協が退社
 3 賃借人が契約解消
全国と地域の主な予定
資料 原水爆禁止2023年世界大会

(目次、終わり)

主な記事

新連載 盲人、地球を歩く1 ヤンキーなニューヨーカー

嵯峨野新次(東京)

 コロナの猛威ですっかり在宅生活が習慣化してしまいましたが、状況がいくらか落ち着き、国内外の人の移動が回復してきたようです。

 そこで新しい連載企画として、会員の旅行記を取り上げることにしました。

 まずは東京の嵯峨野さんに、かつて滞在したニューヨークのことを書いていただきます。

 読者の中で「旅先でこんなことがあったよ!」という方、ぜひ、視覚障害者をめぐる非日常的な体験の交流の場としてこの欄にご参加ください。(編集者)

 かつてカメラマンとして働いていた私は、海外に出かける機会が多くありました。3年ほど前には、スペインでの体験をこの点民に書かせていただきましたが、今回は、目がほとんど見えなくなった頃、本場の英語を学びたいとアメリカに滞在していた時の一場面です。

 いくらかこの大都会にも慣れてきたので、少しずつ一人で歩ける範囲を広げていこうと考え、まずは、以前にニューヨーク在住の親しい日本人に連れて行ってもらったことがある「ジャックス」に、今度は一人で行ってみようと思いました。ここはいろいろな小物を99セントで売る、日本の100円ショップのような店です。白杖をもってアパートから地下鉄で向かうことにしました。

 ところが電車内の放送はなく、気を付けていたつもりが一駅乗り過ごしてしまったようです。慌てて降りて地上に出ると、どうやらエンパイアステートビルの近くらしい。ニューヨークは道の縦横がはっきりしているので、誰にも歩きやすいつくりです。ここならおよその方角がわかるので、歩いて戻ることにしました。

 歩道を歩き始めると間もなく、一人の男が「どこへ行くんだ」と声をかけてきました。「ジャックスへ行きたいのだが…」と答えると、肘を貸してくれました。親切な人だなと思うけど、男は身長約190センチもある黒人の大男で、上下白い服を着ていて、肘が私の肩の高さほどにあります。ふと見ると、前を歩く黒人大男も同じ白い服、左にも同じ白服の黒人です。まさかと振り返ると、そこにも同じ服の黒人がいるではありませんか。にわかに怖くなって周りを見ると、歩行者たちが、僕らにさっと道を開けて通り過ぎます。どこかに連れていかれたらどうしようと思うけど、不安で頭の中が真っ白になり、今さら「やっぱり行くのを辞めます」とも言い出せず、歩き続けるしかありません。前後左右囲まれたままお店まで5分くらいでしたが、たった1人で心細く、極度の緊張です。

 ついに、「ジャックス」に着いた時は一気に力が抜けました。「ここで待っていろ!」と言うので、そのまま3人の黒人と無言で待っていると、ネクタイをした支配人らしき男が来て、「どうぞこちらです」と案内してくれるようです。ここまで連れてきてくれた4人に Thank you」と、どうにか一言伝えて別れました。

 その時に初めて気がついたのですが、最初に声をかけてきたリーダーは、足を引きずりながら帰っていきます。同じ障害者の東洋人を見つけて親切に声をかけてくれ、店まで案内してくれたうえ、私をスタッフに引き継いでくれたのでした。世界の大都会ニューヨークで、常に用心すべきなのはもちろんですが、悪い奴らかもと疑ってしまった自分が恥かしく、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

 そもそも、肘を貸してくれること自体、盲人のサポートを経験した人間でないと知らないことでしょう。「ああ、もっとしっかりお礼を言えばよかったなあ」と後悔しました。

 「ジャックス」の店は広いので、そのスタッフがずっと丁寧に案内してくれ、おかげで迷うことなく目的の品物を買うことができました。

 二度と会うことはないだろうけれど、彼ら大男の黒人4人組に今も感謝です。

(この稿、終わり)

 「点字民報」の全文を読みたい方は、全視協の会員になっていただくか、読者になってください。