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点字民報 2020年10月号 通巻652号

2020年10月10日 更新

 目次と主な記事をお知らせします。

目次

新連載 推理小説の中に描かれている盲人像 江戸川乱歩作『盲獣』
 髙林 正夫(大阪) 
19条裁判 いよいよ控訴審が始まります
 第1回口頭弁論 東京10月1日・仙台10月27日
 あはき法違憲訴訟東京地裁判決を読む
  弁護士 大胡田 誠
 19条裁判メモ
女性部から点字シール付き絵本プレゼントと絵本寄贈のお願い
総務局コーナー
 1 全国委員会など
 2 沖縄辺野古基地意見書
 3 頒布会
 お詫びと訂正
全視協ハイライト 全視協と友好団体・関係裁判の主な予定(10月・11月)
東西南北  高知 東京 大阪

(目次、終わり)

主な記事

新連載 推理小説の中に描かれている盲人像
    江戸川乱歩作『盲獣』

髙林 正夫(大阪)

 髙林正夫さん 1948年静岡県生まれ。20歳頃に見え方に違和感を感じ、病院受診。緑内障と診断され、徐々に視力低下・視野狭窄。現在は全盲。元大阪市立盲学校(現在の大阪府立大阪北視覚支援学校)教員。現在大阪府交野市在住。
 主な著書 『音でみる心も色も、紅葉から慎太郎まで、作家が描いた視覚障害者像』(2018年本の泉社刊 2300円)・『異風の人時代・歴史小説に描かれた盲人像』(2020年本の泉社刊、2200円)・なお、『音でみる心も色も』は点字版・音声デイジー版(サピエ図書館)にもアップされております。
 推理小説はくつろいだ気分の中で誰にでも気軽に、楽しく読めるものですね。自分が探偵役になって一見むずかしそうなトリックの謎解きをしたり、アリバイくずしに躍起となったり、犯人らしき人をやっとの思いで突き止めたと思ったらどんでん返しを食わされたり、と無条件で面白い読み物だと思います。
 さて、その面白さを子どもの頃の私に初めて教えてくれたのが、江戸川乱歩の作品でした。あの名探偵・明智小五郎と小林少年を団長とする少年たが大活躍する『怪人二十面相』や『少年探偵団』シリーズのことです。ある場面では怖いもの見たさにそうっとページをめくったり、別の場面では謎解きにはまり込んでしまったり、次はどうなるの、とハラハラドキドキの連続だったことを思い出します。皆さんもきっと同じような体験をしてきたのではないでしょうか。今回紹介する『盲獣』は乱歩らしい作品だといえばそうなのですが、これらの作風とは全く趣の違うものです。物語は、ある美術館で全盲らしい男が、女体彫刻像に触れている場面から始まります。途中までのあらすじはこうです。
 東京浅草歌劇の踊り子である水木蘭子が、ある日、巧妙に仕掛けられたわなによって見知らぬ地下室に連れ込まれる。その薄暗い地下室で蘭子が見たものは、世にも奇怪な、おどろおどろしい光景だった。木材やゴムなどの素材を使って、床や壁一面に形作られた女体のあらゆる部分のオブジェだった。その地下室の主は蘭子の前に度々現われていた盲目の男である。生まれながらの全盲であったその男は、触覚という感覚に異常な執着を見せる。その結果、世にも異様な感覚世界をこのような形で表わしたのである。やがて、昼も夜もなく、この部屋のなかで異様な男女の痴態が繰り広げられるようになった。その後、蘭子を含め四人の美女たが次々に殺害されていった。この結末や如何に?
 この作品の読後感は決していいものではありませんでした。荒唐無稽・奇想天外・残酷非道などの四字熟語がぴったり当てはまるような、エロ・グロ・ナンセンスな作品の典型だと感じました。もちろん、小説はフィクションです。とはいえ、ここに登場する盲人はあまりにも非現実的であり、非人間的な描かれ方をしています。目が見えないということを謎めいた不気味さで誇張し、怪異を高めるための道具立てに利用したと言われても仕方ないような作品だと思いました。
 乱歩自身、当時(昭和初期)社会全般に広がっていた障害(者)観の中で、興味や感心のおもむくままに『盲獣』のような作品を書いていたようです。着想が奇抜で、ただ面白い物であればよいと考えていたのでしょうか? 時代的背景や社会的風潮に影響されていたとはいえ、その人権意識の希薄さには驚かされます。ただ、「これは失敗作だ」と作品発表後乱歩自身も言っていたようです。ちなみに、この作品が発表されたのは一九三一(昭和六)年のことで、中国への侵略戦争が始まった年のことでした。ここまで極端ではありませんが、今日の推理小説の一部にも興味や好奇心をあおって、読者の「食欲」だけを満たすような作品もけっこう多いので、いつも頭の中はできるだけクリアにしておきたいものです。
 この作品のほか、盲人(視覚障害者)を描いた作品に、点字を暗号文のトリックに利用したデビュー作『二銭銅貨』があります。その他、障害者を登場させた作品に『二廃人』、『一寸法師』、『芋虫』、『妖虫』などがあります。興味ある方はどうぞ。なお、『盲獣』は「サピエ図書館」にあります。

(この稿、終わり)

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